どんど焼きは日本の国民的行事、そして世界の共有文化遺産

    小正月行事「どんど焼き」の全国・国際調査集計報告(令和2年版)

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2020/2/10更新
(このページは随時更新されます)


特定非営利活動法人 地域資料デジタル化研究会/デジタルアーカイブズ


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○デジ研小正月行事「どんど焼き」全国・世界調査の概要と調査データの利用について

 特定非営利活動法人・地域資料デジタル化研究会(以下、デジ研)は、平成15年より、全国の新聞社・放送局など報道機関や自治体のWEB版に掲載された記事などを主な情報源とするキュレーション(Curation)という画期的なIT手法によって、正月の火祭り行事である「どんど焼き」を中心とした小正月行事の実施状況を継続調査し、その成果を本サイトで公開しています。
 さらに平成26年から世界の各地で日本のどんど焼きと類似した新年、新春を祝う火祭り行事が実施されていることが判明したため、調査範囲を海外の報道機関などのWEB版に拡大し、国際規模での調査を継続しております。

 収集したデータは、「地域、実施日、名称、場所、参加者、実施内容、趣旨、起源」の属性別に分析し、表形式で比較しました。このキュレーションにおいて、報道機関などのニュース記事を主な情報資源とする理由は、原則5W1Hのフォーマットで作成され、編集段階でデータとしての内容の正確性も担保されているためです。
 本会の調査の範囲内では、日本及び海外の新年、新春を迎える火祭り行事、並びに関連行事に関する全都道府県、世界各国の詳細な実施状況の調査集計は世界で初めてであり、またインターネットで公開されたのも初めてです。

 以上の調査により、小正月行事について、全国規模の事象比較が初めて可能となり、日本国内の詳細な実施状況を一覧表にまとめることが出来ました。集計結果の分析により、小正月の火祭り行事は、国内の全都道府県で集落を単位として実施されており、日本の国民的行事であること、またその名称は全国でほぼ「どんど焼き」と呼ばれていることを確認しました。
 さらに、国際調査によって、どんど焼きなどの一連の小正月行事は、日本独自の民俗行事ではなく、アジア、ヨーロッパの各地で類似の民俗行事が行われていることが明らかになりました。すなわち、本調査により、小正月行事「どんど焼き」は住民生活の基礎的な地域単位である「集落」を基盤とする日本の国民的行事であるばかりでなく、新春を迎える火祭り行事として「ユーラシア大陸共通の新年・新春を祝う民俗文化行事」であることが実証データにより確認できました。

   調査結果を集約すると、小正月行事「どんど焼き」をはじめ世界各地の新春を迎える火祭り行事では、人々がこの一年の「豊作・豊漁(=防災)」「商売繁盛」「家内安全」「無病息災」「子孫繁栄」などを祈願しています。この祈願を分析すると「この1年の集落の繁栄(豊作豊漁、商売繁盛と防災)」「この1年の住民の健康安全(無病息災、家内安全)」さらに「集落(コミュニティ)の明日を担う生命の再生(子孫繁栄)」という3つの重層的な祈りが捧げられています。
 つまり、新春を迎える火祭り行事の本質は、自分たちの集落と子孫の持続可能な繁栄への切実な祈りにあります。本調査では平成29年版において、日本の小正月行事の現代的な意義付けをこめて、「小正月行事は地域住民が集落の持続可能な発展を願い、コミュニティの繁栄と生命の再生への祈りを儀礼化した地域文化遺産」と定義いたしました。

 さらに世界の新春を迎える火祭り行事の現代的な意義を考察すると、2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえ、「日本の小正月行事そして世界の新春を迎える火祭り行事は、国連SDGsの趣旨を先取りした“世界民俗文化遺産”」ということができます。
 そこにはSDGs達成に必要な3つの課題(=集落の繁栄、住民の健康安全、生命の再生)が明確に示されています。

   本調査ではさらに、新年正月の仮装来訪神行事(ナマハゲ、アマハゲ、スネカ、獅子舞など)についても日本の独自文化ではなく、ヨーロッパ・アジア各地で行われている仮装精霊の来訪行事(クランプス、ブショー、クケリ、ビファーナなど)と類似の行事であり、どんど焼きと合わせて「仮装来訪神行事も新年、新春を祝うためのユーラシア大陸共通の民俗文化行事」として、古代と現在をつなぐ「世界的な文化遺産」であることが確認できました。このことは、ユネスコの類似の無形文化遺産を個別に登録する現在の仕組みに重大な疑問が生じる結果をもたらしています。(詳細は後述)

 以上の調査結果は私たちの当初の想像を超える驚くべきものとなりました。日本国内の山深い里の閉ざされた独自の民俗行事だと思われていたことが、実は海を越えて、ユーラシア大陸各地の民俗行事と共通の「こころとかたち」をもって共有されているということを意味しているのです。
 どんど焼きで確認されたのは「One World One Prayer(世界は一つ、祈りも一つ)」というテーマです。「どうか、ずっと豊かで平和な世の中が続きますように。みんなが幸せでありますように」-それが世界のどんど焼きの共通の祈りです。

 私たちは、この調査結果が日本そして世界の民俗文化研究の新たな議論を巻き起こすための基礎データとして活用されるよう希望いたします。(根拠となるデータは本報告の後半に一覧表として掲載)
 

日本と世界のどんど焼き、関連行事調査報告の構成


 この調査報告報告サイトの構成は以下のように5部構成となっております。
  1. 「小正月行事「どんど焼き」全国・世界調査」HOME このページ
  2. 新着トピックス 小正月行事をはじめ世界の新年新春を迎える行事の話題
  3. 考察編 日本の小正月行事と火祭りに関連する世界各国の行事を比較分析
  4. 投稿写真 本サイトに寄せられた投稿写真を紹介
  5. 世界調査データ一覧 WEBキュレーションによって収集されたおよそ800件の小正月行事や関連する世界行事の事例を表形式で一覧


【日本と世界の小正月行事「どんど焼き」調査結果の概要】

 私たちは、本調査の令和2年における中間報告として、以下の10項目に集約いたします。  

(1)日本の小正月火祭り行事はほぼ「どんど焼き」と呼ばれる

 本調査によって、小正月の火祭り行事は、国内の北海道から沖縄までの全都道府県で実施されている日本の国民行事であることが判明いたしました。その名称は全国でほぼ「どんど焼き」と呼ばれ、そのなかで関西地方では「とんど焼き」、東北地方では「どんと焼き」、長野、山梨で「道祖神祭」、京都、滋賀、北陸などでは「さぎちょう」、九州で「鬼火たき」とも呼ばれています。調査では小正月の火祭り行事の呼び名は30種以上あることが確認できました。(詳細は「考察篇」を参照してください)

 本調査によると、小正月行事は、新年元旦である大正月の行事を終えて、この1年の豊作(防災)、健康、子孫繁栄を願う、集落を単位とした一連の祈り(予祝)の行事であり、そのクライマックスとなる火祭り行事が「どんど焼き」と呼ばれています。
 小正月行事の起源ははっきりしませんが、中国では道教の行事として、旧暦正月15日、7月15日、10月15日をそれぞれ上元節、中元節、下元節として祭祀が行われています。特に1月15日は正月最初の満月の日であり、元宵節(げんしょうせつ)として灯篭を飾って盛大に祝う風習があります。日本の小正月は、この元宵節の影響を受けている可能性があります。
 どんど焼きの実施時期は全国共通で、ほぼ1月14日から15日にかけて実施されています。しかし、九州では七日正月として、6日ないし7日のところもありました。
 ただし、1月15日の成人の日が1月の第2月曜日に移され、連休とされるようになった影響でどんど焼きは、小正月にこだわることなく、住民が参加しやすいように「新成人の日」の前の休日に行われるようになった地域が多く、実施日は各地でばらけてきています。しかし、秋田県などの例では、明治以前の旧暦の伝統を守って旧暦小正月行事を盛大に祝う地域もあり、人気の高い観光イベントとなってます。

(2)小正月行事の主役は子どもたち

 全国的に小正月行事の主役は、中学生以下の子どもたちが担っていることが通例となっています。子どもたちは、神の使いとなって「どんど焼き」をクライマックスとする、この1年の招福、予祝、厄払いなどの一連の行事を担っています。全国の地域コミュニティでは、子どもと大人が行事の開催のために役割分担がなされており、小正月行事を通じて子どもたちは地域コミュニティへの帰属意識と誇りを培う機会となっています。また小正月行事を通じて、地域の人々の結びつきや世代を超えた老若男女の住民が相互理解と交流を深めています。

(3)小正月行事の祈りは、集落と子孫の持続可能な繁栄を願う

 小正月の祈りとは、明治以前の旧暦の農耕社会の伝統を引き継いだものです。旧暦時代の本来の小正月行事は、立春新年を迎えて最初の満月の日(望正月)に行われていました。望正月は新暦の二月から三月上旬にあたり、野も山も春の陽気にあふれ、啓蟄の候ともなります。つまり、農作業を始める節目が望正月だったのです。その節目に当たって、この一年の「五穀豊穣(豊漁)」「商売繁盛」「家内安全」「無病息災」「子宝授け・子孫繁栄」などを祈願する伝統(予祝)が、全国的でほぼ共通して現代まで継承されてきました。東北地方の太平洋岸では、東日本大震災の後、「震災復興」を小正月行事で祈ることが共通して行われています。

   小正月行事の本質は「この1年の集落の繁栄(豊作・商売繁盛と防災)」「この1年の住民の健康(無病息災)」さらに「集落(コミュニティ)の明日を担う生命の再生(子宝授けと子孫繁栄)」という3つの重層的な祈りが込められています。また、書初めを燃やして、習字の上達を願う風習も全国で共通しています。
 小正月行事の現代的な意義は、自分たちの集落と子孫の持続可能な繁栄への切実な祈りにあります。その祈りを住民が「神火」に託してともに行うことで、住民のきずなを確認する行事が「どんど焼き」と呼ばれています。どんなに科学技術が進歩しても、人類は気象災害から逃れることが出来ない以上、人事を尽くしてさらに祈ることは、非科学的とは言えないものです。
 この祈願のこころは、地域社会の持続性維持に何が必要であるかを的確にとらえており、少子高齢化に直面する現代日本の最も切実な課題を先取りしているといえます。しかも、小正月の日を期して、全国各地で焚き火を囲み、一つの祈りを捧げます。「この一年も家族が元気に暮らせますように、農業が豊作となり、商工業が繁盛しますように、そしてみんなが幸せに暮らせますように」-その国民がこころを一つにして捧げる祈りは、きっと大きな力となるに違いありません。

   ただし、都市部においては住民相互の疎遠化傾向により、どんど焼きがしめ飾りや古札などの焚き上げ行事となり、正月行事の締めくくりと受け止められている傾向がうかがえます。

(4)関東甲信越などでは道祖神信仰と結びつき

 神奈川県など関東、山梨・長野・新潟の甲信越地方、ならびに甲信越に連なる静岡県などでは、小正月行事の火祭りを「道祖神祭」と呼んでいる事例が多数確認され、どんど焼きと道祖神信仰の強い結びつきが明らかになりました。特に神奈川、山梨、長野でその結びつきが強く出ています。
 道祖神は集落の路傍に祭られる石神で、丸石、陰陽石、男女双体を刻んだ石碑、道祖神と文字を刻んだ石碑などが祭られています。その信仰は集落外からの災いの侵入を防ぐ防塞(防災)の神、岐(クナド)の神であり、子孫繁栄、健康、交通安全、家内安全などの神として信仰されています。上記の(3)に示される小正月の祈りを、がっちりと受け止める「村の守り神」としての位置づけがなされています。

(5)日本のどんど焼き、来訪神行事はユーラシア大陸各地の共通民俗文化行事

 本調査により、日本の小正月行事である「どんど焼きの焚き火」による豊作祈願や厄払い、獅子やオニなどの仮装来訪神による厄払い・悪魔払い、収穫年占いなどの新年行事は、日本ばかりでなく、ユーラシア大陸各地で、新年・新春を迎える民衆の行事として、共通して行われていることが明らかになりました。
 特に、韓国では、日本の本来の旧暦小正月火祭り行事の伝統を守り、日本のどんど焼きとほぼ同じ行事内容の集落農耕儀礼である「テボルム・タルジプ焼き」が行われていることが確認されました。タルジプ焼きは、新春の初めての満月の夜の火祭りであり、日本の江戸時代に行われていた小正月火祭りどんど焼きの姿が今も守られています。

 また、イタリアの新年農耕儀礼の火祭り「エピファニー・ピニャルル」では、焚き火を燃やしてこの1年の豊穣を光の神・火の神に祈願しています(古代ケルト文化が起源とされる)。さらに英国の「インボルグ火祭り」「ベルテーン」、スウェーデンの新春祝祭「バルボリ焼き」では、燃え上がる「焚き火」に、この1年の健康や幸せを祈願しています。同様に寒い国であるロシアでも新春祝祭として「マスレニツァ」が行われ、人々は木の枝を積んだやぐらに「冬の案山子」(女性のわら人形)を載せて燃やし、冬の終わりと春の到来を祝います。
 暑い国のイランなど中央アジアでも春分を元日とする祝祭「ノウルーズ」(古代ササン朝ペルシャ文化が起源とされる)の「チャハールシャンベ・スーリー」では焚き火に一年の健康を祈願し、インドの新年祝祭ローリ(Lohri)祭りでは、パンジャブ州ほか全国各地で盛大な焚き火で、小麦の豊作祈願と寒い冬の終わり、そして新年と春(夏)の到来を祝い、一年の幸福を祈願していることが分かりました。
 日本の新年来訪神行事である「ナマハゲ」「アマハゲ」「スネカ」などについても、同じ内容の新年仮装行事「クランプス」「ブショー」「クケリ」「ビファーナ」など鬼や魔女に仮装した来訪神(精霊)行事が欧州各国で広く行われていることも明らかになりました。この新年のオニ行事はインドネシアでも「オゴオゴ」として行われています。

 以上の調査結果により、新春を祝い一年の豊穣を願う火祭り、厄払いのオニ行事など新年行事は、ユーラシア大陸の西端の英国、スウェーデンから欧州、ロシア、イランやインドを経て東端の、朝鮮半島、日本まで、各地で共通して行われていることが確認できました。
 各国の民衆は、焚き火に(キリスト教の教えとは異なる)神聖な自然神を見出し、生命の再生とこの一年の動植物の繁殖と豊穣を願い、同じ祈りを捧げていることは、驚きべきことです。具体的なデータの裏付けにより、ユーラシア大陸の新年行事の全容が明らかになったことは、本調査の成果として強調できることであります。

(6)小正月火祭り行事の「左義長起源説」はほぼ誤り 火祭りの起源は謎だらけ

 これまで日本国内では、小正月火祭り行事の起源について「左義長(さぎちょう)は新年に行われる火祭り行事のことをいい、平安時代に宮中で行われていた三毬杖(左義長)が起源である。三毬杖は清涼殿の東庭で、青竹を束ね立て、毬打3個を結び、これに扇子・短冊・吉書などを添え、謡いはやしつつ焼いた。どんど焼きとも呼ばれる」という通説が流布され、主要な辞典に記載されるほか、ウィキペディア(Wikipedia)など、インターネット上の日本語サイトで、コピー流用されています。博物館などの学術機関でも左義長起源説を支持するところがあります。

 ところが、本調査結果によると、韓国ほかアジア・ヨーロッパのユーラシア大陸各地で新年火祭りとしてのどんど焼きと類似の行事が行われていることが明らかになり、「どんど焼きは日本固有の、独自の民俗行事」ということは困難になりました。
 以上に加えて、日本最古の小正月火祭り行事に、1600年以上前の古墳時代からの伝統を持つ福岡県久留米市の「鬼夜(おによ)」があり、1300年以上前の飛鳥時代から続く奈良県御所市の「茅原(ちはら)の大とんど」などがあることから、通説の「小正月火祭り行事は左義長が起源」説は、ほぼ誤りであることが明らかとなりました。
 日本の小正月行事全体の起源の真実は、調査データが不足していて本当のことは「分からない」というのが、現時点では最も科学的な説明だといえます。
 調査データにもとづいて、現時点でいえることは、日本、韓国ばかりでなく、欧州にも同じ新年の集落農耕儀礼としての火祭り行事があることが判明しております。韓国で行われている「タルジプ焼き」、英国の「インボルク火祭り」、ロシアの「マスレニツァ」、イタリアの「エピファニー・ピニャルル」、ハンガリーの「ブショーヤーラーシュ」、イランなどの「チャハールシャンベ・スーリー」、インドの「ローリ」など、アジア、ヨーロッパ各地で類似する新春火祭り行事が行われています。日本のどんど焼き行事の関係を解明することが、今後の調査研究課題となっています。
 世界で行われている新年新春の火祭り行事を歴史的にみると、古代のスラブ文化、ケルト文化の迎春祝祭が起源であるという説があります。しかし、その中で最も古い説明が、紀元前に始まり、ユーラシア大陸の中央に位置する古代ササン朝ペルシャの「ノウルーズの新年拝火行事」です。ノウルーズが地理的、時系的にみて、ユーラシア大陸の中央部から東端の日本、西端の欧州に伝播した可能性があり、現時点で最も有力な仮説としておきます。
 詳細については、「考察編」に調査分析の結果を記述しております。

(7)暦法の変遷により様々な新年、新春を迎える行事が混在

 日本では、新暦、旧暦の大正月・小正月、旧暦の立春新年(節分年越し)などいくつもの新年行事が混在して、そのたびに人々は厄払いやこの一年の幸福を願うなど“混乱”しています。これは、太陰暦、太陰太陽暦、太陽暦など古代からの暦法の変遷によって発生しているものです。
 日本では、古代から現在に至るまで、太陰暦、太陰太陽暦、グレゴリオ太陽暦など暦法が変わりました。そのたびに、古代の立春正月から太陰太陽暦の新月正月・満月正月、太陽暦正月など新年への変わり目が変遷してきました。それぞれの正月行事には生活感情に根差した大切な意義がありました。このため暦法が変わっても人々は、古い行事を廃絶することができずに、旧暦、新暦の大正月、小正月などのいくつもの新年行事が現代まで続いています。大晦日とは別に立春前日の節分に年取り・厄払いを行うのも立春正月の名残といえます。
 新年行事の“混乱”と言っても、厳寒期で家の中に閉じこもりがちな時期の暮らしの中での祝祭は、「寒気払い」の意義もあり、むしろ積極的にいくつもの新年行事を、暮らしの中の楽しみとしてきたと思われます。
 様々な新年行事があるなかで、小正月行事は現在でも旧村落共同体を単位として、全国で盛大に行われています。旧暦で暮らしていた(江戸時代以前)農耕民としての日本人にとって、この1年の豊穣を、立春ころの新年最初の満月と焚き火に祈る「満月正月(旧暦1月15日)」は、最も重要な年初の予祝行事であるからだと考えられます。その慣習が現代にまで引き継がれています。
 新春の豊穣の祈りは、集落の農民が集い、必ず共に行うことが大切でした。その理由は、稲作が農村の中心だった時代には、稲作の水利や田植え、稲刈りなどの営みは、農民の相互扶助(結い)によって支えられていたからです。
 そのため新春を迎え、農作業が始まる時期になると、集落の人々が集まって心を一つにして、この一年の豊作、防災、幸福を祈るのです。その祈りは、新月真っ暗闇の元日ではなく、小正月の夜つまり「新年最初の満月の夜」でなければならなかったのです。1月1日の元日は個別の家庭単位で祝い、15日の小正月は集落の人々が総出で、満月と神火に祈りを捧げ、新春と新年を盛大に祝っていたのです。
 しかし、明治政府の暦法変更により旧暦の年中行事が新暦に移行させられたため、現在では「暗闇の小正月行事」となってしまい、本来の行事の趣旨が損なわれたままとなっています。
 暦法変更による混乱は、年取り行事にも見られ、全国的には元日とは別に立春前日の節分に、昔の「立春新年」の名残として、年取りの豆を食べる風習が残っています。また長野県飯田市周辺の風習では、12月31日(大晦日)にお年取り料理を家族で食べ、1月6日に六日年(むいかどし)として、朝か夜に年取り魚のイワシなどを食べます。さらに1月14日の小正月の前日にも正月と同じようにお供えを供えて年取りを行います。この日はお年取りのあと、集落単位でホンヤリ(どんど焼き)を行い、一年の五穀豊穣、家内安全などを祈願します。飯田市周辺では、節分の年取りとは別に歳末から1月中に3回の年取りが行われていることになります。

(8)小正月行事の背景には国際的なルーツが存在する可能性

 どんど焼きや関連する地方の小正月行事に関して、全国・国際的なデータ分析を基にした調査の結果から考察しますと、これまで、どんど焼きは、鄙びた農山漁村の野卑な風習と思われていましたが、それは文化的な偏見であることが明らかになってきました。
 実際には日本の小正月行事は、国際的な背景と広がりを持った集落農耕儀礼であり、その背景には少なくともアジア・ヨーロッパ=ユーラシア大陸に共通する普遍的な農耕文化基盤が存在する可能性があるということができます。少なくとも「どんど焼き」というキーワードにより、世界の民衆文化が一つにつながる可能性があります。
 デジ研のどんど焼き、そして小正月行事国際調査は「日本文化のルーツとは何か」について、根本から私たちに再考を求める結果をもたらしています。私たちは、これまで事象としての地域の民俗文化行事の周囲に壁を張り巡らし、目に見える事柄の観察に重点を置いてきました。
 しかし、国際調査によって、山深い農山村といえども閉ざされた場所ではなく、時空を超えて世界の農山村とつながりを持っていることが明らかになってきたのです。

 目の前に現れた事象だけを見ていたのでは、「群盲象を撫でる」のことわざにもあるように、現代的な文化研究と呼ぶことはできません。その背景にある見えないけれど、確かに存在する本質をどのように究明するかのか。現象主義を排して、地方の民俗文化の背景にある真理を求める分析研究のあり方が、今求められています。デジ研は、「民俗文化研究のパラダイムを転換するときが来ている」と提唱いたします。

(9)小正月行事は、国連SDGs(2030年アジェンダ)を先取りする世界の文化遺産

 以上の調査結果、特に(3)の結果を踏まえ、私たちは、調査報告の平成29年版において、日本の小正月行事の現代的な意義付けをこめて、
「小正月行事は地域住民が集落の持続可能な発展を願い、コミュニティの繁栄と生命の再生への祈りを儀礼化した地域文化遺産」
と定義いたしました。
 国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)である『持続可能な開発のための2030アジェンダ』は平成28(2016)年、スタートしました。私たちは、これまでの世界調査を踏まえて、「日本の小正月行事そして世界の新春を迎える火祭り行事は、国連SDGsの趣旨を先取りした世界民俗文化遺産」ということができます。この文化遺産には国連SDGsの達成には、住民生活の基礎的な地域単位である集落を単位とすることが重要であり、SDGs達成に必要な3つの課題(集落の(自立的)繁栄、住民の健康、生命の再生)が明確に示されています。

 イランの新年行事「ノウルーズ」は2009年にユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、私たちは、日本の小正月行事もノウルーズと同等以上の文化性と精神性を持っていると言わなければなりません。すなわち、日本の小正月行事は、速やかにユネスコ無形文化遺産に登録されるべき、非常に高い文化価値を有しているといえます。
 さらに、現代のテロと暴力、不寛容に満ちた世界情勢のなかで、世界の人々が、国家、民族、宗教の壁を越えて、新年新春の火祭り行事を通じて、「地域コミュニティの繁栄と生命の再生へ、そして平和と幸福の祈り」を潜在的な共通価値として共有しています。
 どんど焼きで確認されたのは「One World One Prayer(世界は一つ、祈りも一つ)」というテーマです。「どうか、ずっと豊かで平和な世の中が続きますように。みんなが幸せでありますように」-それが世界のどんど焼き火祭りの共通の祈りです。このことは、「世界のどんど焼きの祈りにこそ、人類の和解へ解決の糸口が見つかる可能性がある」と私たちは提起いたします。

(10)ユネスコの無形文化遺産の登録に矛盾

 ユネスコ無形文化遺産の会議で2018年11月、日本が提案した「来訪神:仮面・仮装の神々」が正式にユネスコ無形文化遺産に登録されました。地域資料デジタル化研究会の国際調査によると、欧州各国では、日本と同じ趣旨と姿をした新年仮装行事であるクランプス(Krampus)、「エブラルンのスカブ」をはじめオニなどに仮装した来訪鬼(精霊)行事が広く行われ、個別にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
 デジ研の調査によれば、世界の来訪神は各地の集落共同体を単位とした、厄払い、悪魔払い、子どもの健全育成、家内招福のための一つの共有された民俗文化です。欧州の「クランプス」は日本の来訪神「ナマハゲ」などと同様に、年、季節の変わり目に恐ろしい仮面をつけて出現し、「子どもたちの怠惰を戒め、良い行動をするよう教える」来訪者です。
   ところが、ユネスコは、類似の世界各地の類似の“来訪鬼(精霊)行事”を個別に文化遺産登録しています。これは個々の文化遺産の価値判断に垣根を張り巡らし、さらに国際理解を歪め、来訪神をテーマとした国際文化の共有、交流の可能性を損ねる恐れがあります。

   デジ研の調査によると、日本や欧州の“来訪鬼”の様相は、どれも角と牙を持ったオニ様の異形で、ふさふさ(シャギー)の毛皮または蓑(みの)状の外衣に包まれていることが、共通項目として明らかになりました。防寒形態の衣装により、どこか北方圏に共通のルーツが存在していることが推測できますが、起源は謎に包まれたままです。
 「宮崎のカセドリ」は無形文化遺産となりましたが、それ以外にも岩手、山形、宮城の3県に類似のカセドリ行事が存在し、同じ厄払いと家内安全の祈りの心を共有しています(デジ研調査データ参照)。特に山形県上山のカセドリは、ユネスコ文化遺産に登録されたオーストリアの“仮装精霊”「エブラルンのスカブ」に外見、行事趣旨ともほぼ類似しています。
 上記の「上山のカセドリ」・「エブラルンのスカブ」の事例ばかりではありません。ユネスコでは、韓国が申請した小正月行事「東アジアの綱引き」は無形文化遺産として登録されていますが、類似の小正月行事である日本の「綱引き」は無形文化遺産から除外されています。2017年に無形文化遺産に登録されたスイス・バーゼルの「カーニバル(謝肉祭)」はヨーロッパ各国をはじめ、キリスト教カトリック文化圏の世界各地で、仮面仮装のパレードなど同一行事が行われていますが、なぜか「バーゼルのカーニバル」だけが無形文化遺産とされています。

 どうしてこのような混乱が起こるのか。文化庁公式サイトで「無形文化遺産保護条約に関する特別委員会 」の公開情報にその答えが記されています。

1.無形文化遺産保護条約に対するわが国の基本的考え方
  • 我が国は,既に文化財保護法に基づき,重要性の高い無形文化遺産に関しては,国による指定等を行い,保護措置を講じている。一方,「代表一覧表」は,無形文化遺産に対する認知の高まりと多様性の尊重を目的として作成されるものであり,世界遺産とは異なり,専門機関による価値の評価は行われない。
  • このため,「代表一覧表」への記載の有無によって,我が国の無形文化遺産の価値には何ら影響はない。
  • 「代表一覧表」への記載に係る我が国の提案候補は,「重要無形文化財」,「重要無形民俗文化財」及び「選定保存技術」を対象とし,その中から順次選定を行う。
    ・ 将来的には,記載基準に適合し提案可能なもの全てが「代表一覧表」に記載されることを目指す。
(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunkazai/hogojoyaku/unesco/besshi.html)

 ユネスコの無形文化遺産は、どのようなものを提出するかについては,各国の判断に委ねられているうえに、専門機関による価値の評価は行われないのです。ここに類似行事が国ごとに別個の行事として扱われ、類似行事が文化遺産であったりなかったりする混乱を引き起こす原因があると思われます。
 地域資料デジタル化研究会の世界調査によれば、キリスト教文化圏の春の祭典カーニバルをはじめ、新春の火祭りなど年や季節の変わり目に地域社会で行われる民俗行事(無形民俗文化)は、すくなくともアジア、ヨーロッパのユーラシア大陸では、国境や民族の壁を乗り越えて共通の祈りと、共通の表現形態をもって、各地の集落を単位に行われています。そこには世界人類が国や民族の壁を乗り越えて相互理解と融和の糸口が見いだせる可能性があります。

 目の前に現れた奇怪な仮面や衣装だけを見て、文化遺産の判定をすることは、科学的な文化研究と呼ぶことはできません。その背景にある見えないけれど、確かに存在する本質をどのように究明するかのか。現象主義を排して、地方の民俗文化の背景にある真理を求める分析研究のあり方が、今求められています。

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【ユネスコ無形文化遺産の代表リストと、その優れた保護慣行の登録内容一覧】
the Lists of Intangible Cultural Heritage and the Register of good safeguarding practices
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【小正月行事を持続可能な開発のための教材とするプランの提案】


 以上の観点からは、「小正月行事どんど焼き」は現在の教育現場で課題となっている「ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)」を最も具現化した地域教材ととらえることができます。実際に日本全国で小正月行事はの主役は小中学生であり、毎年の自分たちが実践している地域の伝統文化行事を科学的に調査分析し、記録に残すことは、持続可能な開発のために何が大切であるかを学ぶ最高の地域教材と言えるでしょう。その詳細については、本調査結果の「考察編」をご覧ください。
 当研究会では、学校教育における小正月行事の教材化プランを作成して無償公開しておりますので、ご利用ください。
教材化プランのPDF文書はこちらからダウンロードできます。
 
 デジ研では、今後の「大正月・小正月行事研究」をより深めるために、47都道府県と関連する世界調査データをすべて公開することとしました。
 本調査の公開データは、これまでの地域文化の研究に張り巡らされていた偏見や国境の壁を取り払い、ものごとの見方や捉え方を根本から転換させる可能性を秘めております。
「国内のどんな山深い里の民俗行事であっても、世界共通のルーツとつながっている」
 本調査をきっかけに始まった「パラダイム・シフト」に挑戦するのは、もしかしたら、このサイトを閲覧しているあなたなのかもしれません。


 <著作権の表示:この国際調査データの引用は商用目的を除き自由です。出典を明らかにして、活用してください。データの加工も自由で、許諾も不要です。出典は[NPO地域資料デジタル化研究会・小正月行事全国・国際調査]でお願いいたします。商用利用を希望される場合は、下段にあるコンタクトフォームからお問い合わせください。> (2020年1月18日更新)

日本と世界のどんど焼き、関連行事調査結果一覧表はこちらをクリック

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(調査・データ編集:NPO地域資料デジタル化研究会デジタルアーカイブ班 担当・井尻俊之)

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